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From Yuko to Keiko 8/13/1999 「Oxfordから(7)」 (Oxford)

From Keiko to Yuko 8/13/1999 「Re:Oxfordから(7)」 (Tokyo)

From Yuko to Keiko 8/13/1999 「Oxfordから(7)」 (Oxford)

Dear Keiko

今朝、息子を学校に送りだし、娘と一緒に家の隣のフィールドを 運動不足解消のために歩きました。散歩に行く方が楽しめるのだけど どこかまで歩いて行ったあげくにエネルギー切れで戻れなくなるかもなんて 歩く事にはますます自信がなくなりつつあります。いつも車の生活をしている ツケです。そこで同じとこを回る方が都合がいい。でも覚えているでしょ。 家の隣に広がるフィールド。日本じゃ考えられない広さ。娘が4周回る 間にhedgeのブラックべリーを摘み食いしながら、やっと1周歩いたよ。 夏の実感も充分ないまま、もう秋の気配すら感じます。イギリスの友人達は 会えば必ず、こんなもので夏が終わるわけはないと儚い抵抗を示すけれど 夏は確実に過ぎて行きつつある。イギリスの秋を待たずに気配を感じた だけで毎年帰国してしまうのが残念。イギリスの秋は美しいよ。日本の街中 ではなかなか感じられなくなったけど、ここの秋には自然の実りが溢れている。

私がこの家を買った94年から95年にかけて、真冬以外の四季折々に6回も イギリスを訪ねた。 94年の夏の3ヶ月の長期滞在を含めて1年の半分以上 イギリスで暮らした。 女が一人短期間に何度も入国を繰り返すので、ある時 入国審査官にひどく追求されたことがあった。Married womanがこんなに 自国を何度も離れるわけは何かと。 "None of your business." とは言ったものの 夫と私の関係についてまで説明するはめになり、入国カードに記す housewifeの文字の秘めている深い差別を思った。職も無く何度も入国を 繰り返す女。イギリスに将来を託す何かを見つけに来ているのかもしれない女。 何のために。職も無く、若くもない女が考える事はそんなに多くないだろう。 何かを誰かを見つけてすがりつくことくらいか。その先は日本より整った 社会保障制度の恩恵を受けてというより、ご厄介になるということ。審査官の 想像は彼だけのものでもない。 "For sightseeing"では通らない回数の滞在をしたあのころ。買った家の改装の ため。コンサートに。そしてまたヨーロッパをツーリングするために。 何度目かには入国理由は"for my friend's funeral." 忘れてはいないよ。でも、もういいの。も一度書いた。 イギリスの秋の美しさについて書こうとしていたのにまた悪い癖で・・・ いつも本題から宇宙の果てまでの距離くらい離れちゃうね。

今、夢中になってキーボードに向かっている私の目の前にwindow cleanerが ニューと現れて顔をばったり。 北に面したベッドルームのベイウィンドウ。 こちらの窓は中からは磨きにくいので定期的にクリーニングを頼んでいるのよ。 ご近所もほとんどそろってです。通りの景観には気を使う人たちですから。

それにしても、あなたの「労働」には頭が下がります。ある人が最近、著書の 一章を私のためにあてて下さったのだけど、その時もインタビューを含めて 莫大なエネルギーと時間を費やした。この本は帰国する頃には出ている はずなのですが。この方は鎌倉で小さなお店を(インドネシアの小物や 布を扱ってるの)やりながら、ルポライターとして活動しているのです。 主に女の生き様についてのものが彼女の関心。

さて、私とて自分のおしゃべりに疲れてきた。暫く気分転換。

きのう見てきた「アラビアンナイト」というミュージカルというかお芝居というか についてまた書くね。舞台効果のことについ目が行ってしまうのよ。一度 自分が経験すると次々に興味が沸いてくる。県民ホールコンサートのときには 自分の歌のことだけじゃなく、ひとつのステージを作るにはこんなにもたくさんの 事がそして人が関わるのかという驚きを感じた。音響さんや照明さんと どうコミュニケーションするかなど全く初体験で右も左もわからなかったのに、 次の機会からは「職人」さん達に対しての注文の出し方も少しはわかると思う。 だから、あなたのHPにしてもそのうち、あれこれ注文のうるさい「お客」に なるかもよ。全くあなたがやっていることは仕事に値するものです。 私に時間をくれてありがとう。でも会う時間もそのうちちょうだいね。 あなたが書いている短文や詩を読んでいるとチョットチョットこれは会って 話さないとね、と思えてくる時があるよ。

それでは。

From Yuko


From Keiko to Yuko 8/13/1999 「Re:Oxfordから(7)」 (Tokyo)

Dear Yuko

やっぱり戻ってきたパソコンの前。こちらこそ、時々悪いことをしてるのじゃな いかと思うときがあります。せっかくイギリスでリッチな時を過ごそうとしてい るあなたをパソコンの前に縛り付け、「書け書け」と言ってるみたいで。だか ら、イヤだと思ったら、いつでも休んでね。私はもう何年もこういうことをやっ ているので、突然の音信不通にもさして驚きはしません。始めの頃は相手が誰で あれ、返事が来ないそのことが辛くて辛くて、世をはかなむくらいの気分になる こともあったけれど。(大げさだ。)いまはもう、人の心や人の生活のリズム が、どんな風にフラクタルなものか何となく予想がつき、そう痛まなくなってき た。特定の相手によっては痛んだり恨んだり、心が激しく揺れることが今もまま ありますが。

>夏の実感も充分ないまま、もう秋の気配すら感じます。イギリスの友人達は
>会えば必ず、こんなもので夏が終わるわけはないと儚い抵抗を示すけれど
>夏は確実に過ぎて行きつつある。イギリスの秋を待たずに気配を感じた
>だけで毎年帰国してしまうのが残念。イギリスの秋は美しいよ。日本の街中
>ではなかなか感じられなくなったけど、ここの秋には自然の実りが溢れている。

想像するだけでため息がでそう。秋の後に続く長く陰鬱な冬があればこそ、春と 夏と秋のイギリスは天の恵みなのでしょうね。そのうちきっと秋をそちらで過ご す機会もあるでしょう。前回のにも書いたことですが、私たちの人生自体に秋や 冬が訪れるのですもの。自然の成り行きで、「今年は秋をイギリスで」なんて時 が巡り来るのかも。いつかご一緒しましょうかね。そういえば私が初めてアイル ランドを一人旅していたときのこと、DublinのB&Bでオーストラリアから来たと いう年輩の女性二人と同宿になりました。よせばいいのに私の持っていた梅干し を朝のポリッジにのせて食べ、この世の終わりみたいな顔をしたご婦人方。どう もスクールメートだったらしいの。祖先の故郷であるアイルランド詣出の旅だっ たのかも。その二人を見ながら、私はふっと遠い遠い将来、私も誰か女友達とア イルランド再訪をすることがあるのかも知れない、なんて思ったのよ。今現在 は、いつかまた一人旅をしてやろうと思っているのだけれど。家族旅行もよいの ですが、時々無性に漂白の思いに駆られることがあって。そんなこと言っておい て、いざとなるとモバイルパソコン鞄に入れて、どこへ行ってもメールを打ちま くっている自分の姿も想像できます。

>女が一人短期間に何度も入国を繰り返すので、ある時
>入国審査官にひどく追求されたことがあった。

この話を聞くのは初めてよ。女性差別、人種差別の見本だわね。日本の「入国管 理事務所」も特に非欧米系の外国人に対してはひどい扱いをするらしいですね。 欧米系の人たちですら、ビザ更新時には必ずイヤな思いをすると言っていまし た。人間が作ったボーダーを超えていくとき、必ず人は自分のアイデンティ ティーの証明を要求され、それに難癖を付けられないではすまないのでしょう か。「私は私よ」では通らないのが国家というもの。あなたが不在の日本では、 「国旗、国歌」が国会によってオーソライズされ、「通信傍受法」も可決されま した。いろいろなレベルでじわりじわりと状況が変化してきています。今私たち が国境など関係なく、誰にも検閲されることもなく、こうして好き勝手なことを 書いて情報を飛ばし合っているまさにこの行為が、ずっと自由に行えるものか、 はたまた個人間の情報にも管理する網が大きくかぶせられることになるのか、予断 を許しません。今はまだインターネットの世界はかなりアナーキーです。でも犯 罪が増えるにつれて、オーソリティーの手がここにも伸びてくることはあり得る し、特に国家非常事態にでもなれば、特定の国の人々との交信が絶たれることす らあり得るかも知れません。例えば何かのことで私やあなたが個人として誰かに マークされたとしましょう。インターネットの網の目のどこかでそれを「傍受」 する方法など、その気になればいくらでも開発されて、ログを取られ、「証拠物 件」として押さえられることになるかも知れません。でもね、草の根の人々も負 けていないと思うの。そんなことさせまいと、網の目をかいくぐるシステムが きっと開発されて、鼬ごっこの始まりよ。それはそれで面白い展開かも。ホント はno laughing matterですけどね。

>ある人が最近、著書の一章をわたしのためにあてて下さったのだけど、
>その時もインタビューを含めて莫大なエネルギーと時間を費やした。
>この本は帰国する頃には出ているはずなのですが。この方は鎌倉
>で小さなお店を(インドネシアの小物や布を扱ってるの)やりながら、
>ルポライターとして活動しているのです。主に女の生き様についてのも
>のが彼女の関心。

おや、これも初耳だ。私たちが、この一年、どれほど自分の生活や活動に忙しくし ていてコミュニケートしていなかったがよく分かる。是非読ませていただきたい わ。私に先んじてあなたのことを書いた人がいるなんて、先陣を越されたか。お 互い忙しかったということについては、そういう年回りでもあるのでしょう。第 一、私がどういう職場にいて、どういう仕事をしているのかなんてことをあなた に詳しく話したことは一度もなかったわよね。今は夏休みだから、仕事の話も職 場の話もしたくないわ。ただ、とてもとても忙しく、いろいろな困難もあるとい うことは確かなの。「仕事」と一口に言ってもその人その人のいる場所でずいぶ ん内容は違うでしょう。あなたが歌手として始めた仕事は、私の抱えている仕事 とは全く別次元のものだわ。だからこそ、いくらでもメールで話がしたくなる。 別世界の人と出会いたいことってあるわよね。あなたがイギリスに家を構えたの も、多分にそれがあるのではないかしら。私の場合は、かなり腹をくくって、今 いるところにどっぷり浸かっています。それが永続的なものでないことは、もち ろん想像に難くありませんが、「今、ここ」は手放せない。

>きのう見てきたアラビアンナイトというミュージカルというかお芝居というか
>についてまた書くね。舞台効果のことについ目が行ってしまうのよ。一度
>自分が経験すると次々に興味が沸いてくる。県民ホールコンサートのことでは
>自分の歌のことだけじゃなく、ひとつのステージを作るにはこんなにもたくさ
>んの事がそして人が関わるのかという驚きを感じた。音響さんや照明さんと
>どうコミュニケーションするかなど全く初体験で右も左もわからなかったのに
>次の機会からは「職人」さん達に対しての注文の出し方も少しはわかると思う。

分かる分かる。私が一番感心するのは、アーティストの一見華やかな舞台が、多 くの人々の共同作業の成果であるという点。残念ながら前回の神奈川県民ホール は見逃しましたが、次回は是非とも。昨年暮れに渋谷の東急文化村・シアターコ クーンに私が中島みゆきの「夜会」を見に行ったのは覚えているわね。私たちと 同い年の歌手が、十年続けて自作の音楽劇(そうとしか呼べない独特のジャン ル)を一所で上演してきたことに先ず、私は感嘆の念を抱きました。

私が何故中 島ファンになったのかについては回を改めて書くとして、あの舞台を彼女を中心 とする大勢のスタッフが十年敢行してきたことと、その舞台に接したくて日本全 国から集まってくるファン達の熱気に、ただならぬものを感じたわ。チケットを 手に入れるだけでも大変な苦労でした。一種のコンサートではあるのだけれど、 誰かが演出を手がけて、それにのって商業的に大きな実入りのある興業というも のではないの。歌い手は作者でもあり演出家でもあり、すべての楽曲の作詞・作 曲もする。舞台がはねてそれで終わりかというと、今度はその舞台をビデオ化 し、楽曲を再編成してレコーディングする。何ヶ月もかけてね。そのトータルな 活動ぶりに、同い年の女として、私は瞠目しています。

勿論中島が音楽的に、今 の最先端かといえば違うだろうし、第一線のミリオンセラーかといえばそうでも ない。かつてのようなカリスマ性を保持し続けているとも思わない。でも、 ちょっと引いたところで出会った私は、初期のアルバムからほぼ全部集め、手 に入る限りの著作を読み、「歌集」を手元に置いて飽きずに読み返している の。一昔前、自分の専攻している作家についてひたすら読んでいた頃に似ていな くもない。未だそれでどうだというようなことは何も言えないのだけれど、人が 何者かに惹かれるとはどういうことなのかを実に考えさせられます。ファンとい うのがどういうものか、そのうち話しましょう。歌い手として聴いて頂戴。

From Keiko


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